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長崎地方裁判所 昭和24年(行)25号 判決

原告 白倉チハ

被告 長崎県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、訴外南有馬町農地委員会が、別紙第一目録記載の農地について、昭和二十四年二月十七日附でした第九次農地買収計画決定に対する原告の訴願について、被告が、同年四月二十八日した却下裁決を取り消す、被告は、右買収計画決定を取り消さなければならない、訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立て、その請求原因として、訴外南有馬町農地委員会は、別紙第一目録記載の農地を原告の兄白倉吉九郎の所有に属するものと認めて、昭和二十四年二月十七日右農地に対する第九次買収計画決定をした上、同日「二四南農委第六号」を以て、吉九郎に対し、その旨通知しこれに対してなされた異議の申立を同年三月一日却下する旨決定した。

けれども、右農地は、以前原告の父白倉長吉の所有物件であつたのを、大正四年一月二十八日同人の死亡に因り、その長男吉九郎がその家督を相続して所有権を承継取得したものであるが、同人は、昭和十七年五月頃隣村北有馬村戍千二百一番地城谷スナヲと事実上の入夫婚姻をして、同女と同居し、白倉家は、爾来その妹たる原告において、先祖の祭祀を主宰するに至つたので、同二十年三月頃原告の親族一同協議の上、別紙第二目録記載の農地及びその他数筆の不動産(第一目録記載の農地をも含む)を訴外吉九郎から原告に対し贈与すべき旨決議し、同訴外人も亦異議なくこれに同意した結果、原告は、贈与に因り右農地等の所有権を取得し、当時これが引渡を受け、右受贈地の内別紙第三目録記載の農地を自作することにし、その余は第三者に小作させて今日に至つたのである。従つて、南有馬町農地委員会の前示農地買収計画決定及び異議却下決定は、所有権の帰属を誤認し、真実の所有者たる原告の権利を侵害する違法のものであるから、原告から同年三月九日更に被告に対し、訴願したところ、被告は、不当にも同年四月八日これを却下する旨の裁決をし、原告は、同年六月七日被告からその旨の通知を受けた。そこで、被告に対し、本訴提起に及んだ旨陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、原告が自身本件農地買収計画決定に対し、異議申立をしなかつたことは認めるが、原告は、被告の行政行為により自己の所有権を侵害されたのだから、適法に訴願をし、且つこれが裁決に対し訴訟を提起することができると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、本案前の抗弁として、原告の本訴請求中行政庁に対し積極的な行政処分を命ずる判決を求める部分は、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴の範囲を超越し、裁判所の裁判権に服しないから不適法である。次に、自作農創設特別措置法第七条の規定によると、農地所有者は、農地買収計画決定に対し、異議申立をすることができ、その決定に対し不服があるときは、更に異議申立人に限つて、訴願することができるのにすぎないところ、本件農地買収計画決定に対しては、訴外白倉吉九郎から異議の申立がされ、その異議棄却の決定があつたのだから、訴願はたゞ同訴外人だけがこれをすることができ、異議申立人でない原告においてこれをすることができない筋合である。にもかゝわらず、原告から被告に対し訴願をしたので、被告は、原告が訴願人たる適格を有しない不適法のものとして、右訴願を却下する旨の裁決をしたのだから、該訴願が適法であることを主張して、右裁決の取消を求めるのであれば格別事ここに出でないでいきなり自己に所有権のあることを主張し、実体的事実を原因として、農地改革に伴う行政庁の違法な処分の取消を求める原告の本訴請求は、不適法である。けだし、斯様な訴訟は、行政事件訴訟特例法第二条の規定により、異議申立又は訴願をした後でなければ、これを提起することができないのに、右異議申立又は訴願は、専ら適法なものに限り、原告の前示訴願のように不適法なものを含まないからである。と述べ、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、訴外南有馬町農地委員会が、別紙第一目録記載の農地中長崎県南高来郡南有馬町大字大江字八反間乙二千四百七十七番畑二畝歩を除くその余の部分につき、当時訴外白倉吉九郎(同郡北有馬村内に居住)の所有する不在地主の小作地として、買収計画決定をしたこと、これに対して、同訴外人から同委員会に異議の申立がされたが、同委員会がこれを棄却する旨決定したこと、及び原告が右決定を不服とし、右目録中同所大字白木野字郷子溪丙二千四百四十三番第一畑一畝十六歩以外の農地につき、被告に対して訴願をしたが、被告において、原告主張の日時これを却下する旨の裁決をしたことは、いずれも争わないが、本件係争農地が原告主張のようにその所有になつた事実は、これを否認する。仮に、右農地が真実原告に譲渡されたとしても、その譲渡は、昭和二十年十一月二十三日以後にされたものであつて、右日時には訴外吉九郎の所有に属していたのだから、前示買収の理由と併せて、右日時現在における不在地主たる同訴外人の所有する小作地として、本件買収計画決定はされたものである。従つて、原告の本訴請求は失当である旨陳述した。(立証省略)

三、理  由

被告の本案前の抗弁について按ずるのに、訴外南有馬町農地委員会が、係争農地を訴外白倉吉九郎の所有に属するものと認めて、昭和二十四年二月十七日右農地に対する買収計画決定をし、同年三月一日これに対する同訴外人の異議申立を却下する旨決定したこと及び更に原告が、右却下決定を不服として、同月三日被告に対し、訴願をし、被告において、同年四月八日これを却下する旨の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争がなく、証人寺本勝の証言によると、被告の右却下裁決は、原告の該訴願が異議申立人でない者によつてされた不適法のものとして、全然本件農地買収計画決定の実体関係に触れないでされたことを知ることができるが、たとえ斯様な裁決であつても、それが行政庁の行政処分に属することは一点の疑をも容れないところである以上、その違法を主張して、訴願の当事者から、取消若くは変更の行政訴訟を提起することができるものと解するのが相当であるから、原告の本訴を目して不適法だということはできない筋合であるとはいゝながら、しかもなお一方自作農創設特別措置法第七条の規定によると、元来農地買収計画決定に対しては、当該農地の所有者から異議申立をすることができると同時に、これに対する決定に不服があるときは、更に異議申立人だけに限つて訴願をすることができるのにすぎないことが明らかであるのに、本件においては、前段認定のとおり異議申立人でない原告から被告に訴願をしたため、被告がこの点の違法を捉えて右訴願を不適法とし、前示却下の裁決に及んだものであるから、被告の右裁決は適法であつて、この点に関する限りその取消変更を許さないばかりでなく、他方原告は被告の該裁決により自己の所有権を侵害された旨実体上の理由に基き、被告の裁決処分を攻撃するけれども、右裁決は全然本件農地買収計画決定の実体関係に触れないでされたものであるから、斯様な理由に基いては、これを攻撃することができないものと断じなければならない。

果してそうだとすると、その余の争点についての審究を待つまでもなく、原告の本訴請求は、既に以上の点において、失当として排斥を免れないから、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決した次第である。

(裁判官 林善助 吉江清景)

(目録省略)

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